時事コラム(2020/04/21)

コロナウィルス対策における日本の取るべき施策(2020/4/21)

(写真は日経新聞より)

北海道大学教授の西浦博氏が、人と人との接触を8割減らさないと、日本で約42万人が新型コロナで死亡するという試算を発表してマスコミで騒然となったのはご承知の通りと思いますが、この試算についての検証が新聞・TVでほとんどなされていないことに愕然としています。少なくとも私の見たテレビや新聞では、表面的な報道しかなく、じゃあ実際はどうなん?とか、もっと現実に即した試算を出すべきとか、そういう提言や解説があっても良いと思うのですが、やることと言えば、今日の感染者数がXXとか、医療崩壊で現場混乱とか、不安をあおるような内容に終始しているのが実情です。

1例を挙げると、この試算を報道している東京新聞では、実際にこれだけの死者が出るとは考えにくいと書かれていますが、じゃあそんなありえない試算ベースだったら、8割削減したって意味なくね?ってなると思うのですが、そういう事には触れられていません。

これが評論家の1意見とかなら、それでも構いませんが、クラスター対策班の中枢で影響力のある人物の試算です。もちろん、西浦博氏自体は素直に試算したんだと思います。基本再生産数=2.5という、欧米の「最悪」に近い数値を採用したのも、今は抑え込んでいるけど、クラスター感染が発生し、オーバーシュートして医療崩壊したら・・・という最悪のケースを考えてのものと思います。最悪の事態を想定して、初めは大きく網をかけ、徐々に開放していくというのが危機管理のイロハだと思うし、それで正しいと思います。

しかし、実際はどうでしょうか。8割削減するには個人満額保証してロックダウンしかない!みたいな、無責任かつ不安を煽るような論調しかみられません。確かに、国民受けしてかつ危機感を持たせるという意味では良いでしょう。しかし、国の将来がかかっているというのに正しい情報を伝えないメディアに存在意義があるのでしょうか。

まぁ、既存メディア(TV・新聞)に対して、今ここで嘆いたところで何も変わらないと思うので、これらのメディアの情報は話半分に聞いておき、自分自身で情報を取得し、自分で判断していくしかありません。

ただ注意しなければならないのは、自分で情報収集する場合、自分に都合の良い情報にだけ飛びついてしまう可能性があるので、自分に合わない論調も参考意見として確認しておく必要があります。

では、いったいこの西浦モデルの現状はどうなっているのでしょうか。まずは検証している記事を見てみましょう。



【西浦モデルの検証(篠田 英朗氏によるアゴラの記事)】
緊急事態宣言・西浦モデルの検証(4月10日)
緊急事態宣言・西浦モデルの検証(4月12日)国民の疲弊リスク
緊急事態宣言・西浦モデルの検証B(4月15日)1カ月で収束するのか
緊急事態宣言では、このモデルに基づいて「医療崩壊を防ぐ」ために8割削減を行って、1か月で収束すると言ってるが、そもそもの前提に根拠がなく、中途半端なアメとムチの政策をとった事で誤った政治的な判断をするのではないかと警鐘を鳴らしています。氏は同サイトで良記事を連載されているので、関心のある方はフォローしておくと良いと思います。

次は悲観論と楽観論を見ていきましょう。まずは悲観論から。

WHO上級顧問・渋谷健司さんが警鐘 「手遅れに近い」状態を招いた専門家会議の問題点
日本は手遅れに近いと言ってます。徹底的な検査と隔離が必要で、ロックダウン的な施策が必要といってます。メディアの論調に一番近い意見と言えます。

この人は以前から「検査・検査・検査」を主張し続けていた(WHOの人だし)ことからネットではボロカスに叩かれているイメージがありますが、以下は全く正しいです。「検査を抑えるという議論など、世界では全くなされていません。検査を抑えないと患者が増えて医療崩壊するというのは、指定感染症に指定したので陽性の人たちを全員入院させなければならなくなったからであり、検査が理由ではありません。」

日本では、検査して軽症者を入院させたから医療崩壊みたいな文脈でしか説明されていませんが、実際は指定感染症に指定したのが諸悪の根源で、初動段階での検査と隔離の運用の整理ができてなかったのが問題だったと思います。もちろん、検査キットが足らないとか保健所の人がまわらないとか、リソースを検査に割くべきではないとか、重症者だけ入院させれば良いので検査不要という意見もあるかと思いますが、誰にでも検査しろという訳ではなく、医師が必要と思う人には検査すべきというのは正しいと思います。

次は楽観的な方。池田信夫さんです。
なぜ人々は新型コロナをインフルエンザ以上に恐れるのか
反対派の代表的な意見ですね。氏は福島原発の時も同じことを言っていたのでぶれてません。

「新型コロナで42万人死ぬ」という西浦モデルは本当か
こんなのはシミュレーションではなくフィクションで、日本経済を崩壊させるものだと手厳しいです。

新型コロナ問題はICUベッド問題である
もちろん、全く問題が無いと言っているわけではなく、医療崩壊を防ぐにはICUベッドのリソース管理が重要だと言ってます。

これで、だいたい有識者の両極端の主張が抑えられます。しかし、これらだけ見てもそんなに外したことは言ってません。あとは、じゃあ今後どうするかです。

以降は提言系です。まずは一番まともというか、オーソドックスというか優等生的な主張がこれ。国民民主党の玉木雄一郎さん提言です。
【緊急提言】ロックダウン、100兆円財政出動を今こそ決断せよ

自分に首相をやらせてくれという強い意志・信念をもって、私ならこうするという提言をされるのは非常に立派なことです。内容は筋が通ってます。ロックダウンして感染する確率を下げ、手厚く補償しましょうという欧米と同じ政策です。欧米に準じた対策という意味では一番無難なモデルでしょう。

次は京都大学レジリエンス実践ユニットという、自然災害や世界恐慌やパンデミック、テロ攻 撃等に対するレジリエンス(強靱性)を確保するための実践的研究を行う研究組織からの提言です。
リスク・マネジメントに基づく「新型コロナウイルス対策」の提案

ここで掲げられた基本方針は以下となってます。
「医療崩壊」を回避しつつ、新型コロナウイルスによる「死亡者数」「重症者数」 の抑制を重視すると同時に、その対策による「自殺者増」を含めた社会的経済的被害も踏まえた上で、長期的な国民的被害の最小化を目指す。

医療崩壊・経済被害・重篤者すべての低減を目指した低減なので、現実的です。これこそがたたき台にふさわしいモデルと言えます。

次はブロガーじゃなくストラテジストである永江一石さんからの提案。

なんでロックダウンしないで完全にコロナを制圧した韓国を参考にしないのか
感染症の学者の皆さまは戦略は立てられても戦術は無理と分かったのでわたしが代わりに立てた(永江プラン)
などが参考になるかと思います。永江プランは非常に良く練られている案だと思いますよ。

個人的な意見を言わせてもらうと、やはり玉木案には乗れないです。これはあくまでも海外の参考意見です。

欧米のように大量に死者が出ている状況ならそうでしょうが、日本は今のところ抑え込めているのです。それなのにロックダウンを行うというのは、あまりにも無策と言えます。

例えるなら玉木案は銀行強盗がいて銀行内に籠城しているような状況の時、犯人の言うがまま、お金を渡すようなものでしょう。つまり、人命が大事なので、犯人を刺激せず、言われるとおりにしましょうという案であり、これなら誰でもできます。これは最悪ケースの案であり、日本が取るべき案ではありません。

日本では欧米のような死者は出ておらず、国民民度も高いです。きれい好きで衛生観念も高いです。どういう場面でクラスターが発生するのか、どういう年齢層がかかりやすいか、そういう情報はもう揃ってきています。前述の例でいれば、人質なんて最低限目に届く人数だけいればよいだろう、女性や子供は解放してあげようとか、そういう粘り強い交渉をして被害を抑える策を取らなければなりません。

100兆財政出動と軽く言いますが、ロックダウンなどしなければ本来払う必要が無い「死に金」です。これに100兆投資するくらいなら、ワクチン開発・医療設備・人材投資・研究開発など未来に投資した方が良いでしょう。相当の事ができますよ。

なので個人的には、京都大学レジリエンス実践ユニットの方針に従い、永江プランをたたき台にブラッシュアップしていけば良いと思います。




トップページへ戻る     時事コラムインデックスへ戻る