「AIが選ぶおすすめゲーム」の木曜枠(PnP=プリント&プレイの高評価作品)で出てきて、気になったのが Black Sonata(ブラックソナタ) です。シェイクスピアのソネットに登場する謎の女性「ダークレディ」を、1人でロンドンの街に追う隠密移動・推理ゲーム。「このゲームにはソロプレイに求められている要素が全て揃っている」という強い意見もあると聞いて、俄然興味が湧きました。
ちょうどルールブックの日本語訳を作ったところなので、翻訳・BGGの情報・画像をもとに、これがどういうゲームで、何が魅力なのかを深堀りして紹介します。

| ゲーム名 | Black Sonata(ブラックソナタ) |
|---|---|
| 発売年 | 2017年 |
| BGG rating | 7.47(約3,800票) / 総合Rank 949 |
| プレイ人数 | 1人(ソロ専用) |
| プレイ時間 | 30分 |
| 推奨人数 | 1人(ソロ専用ゲームです) |
| 年齢 | 12歳以上(製品版パッケージは14歳以上表記) |
| 重さ | 2.12 / 5(軽めの中量級) |
| Designer | John Kean(ジョン・キーン) |
| Artist | John Kean(地図と肖像画はパブリックドメインの「Agas」地図とエリザベス朝の肖像画を使用) |
| Publisher | Side Room Games ほか(CrowD Games、GateOnGames など各国語版あり。PnP版はWeb公開) |
| カテゴリー | 推理 / Print & Play / ルネサンス |
| 主なメカニズム | 隠密移動、推理、ポイント・ツー・ポイント移動、アクションキュー、プッシュ・ユア・ラック、ソロ専用 |
デザイナーもアーティストも John Kean 1人。1600年頃のロンドンの古地図と実在の肖像画をそのまま素材に使っているので、小さいゲームなのに歴史資料をめくっているような風格があります。もともとBGGの2017年ソロPnPコンテストで生まれ、評判が高すぎて製品版が出た、という経歴の作品です。
シェイクスピアが残した154篇のソネット(十四行詩)のうち、後半の一連の詩には「ダークレディ」と呼ばれる黒髪の女性が登場します。詩人が愛憎を注いだこの女性が実在の誰なのかは、4世紀にわたって研究者が論争を続けてきた文学史上の有名な謎です。
このゲームは、その謎解きをそのまま遊びにしています。舞台は1600年頃のロンドン。ダークレディの候補として、Mary Fitton(メアリー・フィットン)、Emilia Lanier(エミリア・ラニエ)、Anne Whateley(アン・ワトリー)ら、実際に候補として名前が挙がってきた12人の女性が登場し、それぞれ実在の肖像画付きのカードになっています。場所キーカードの表には、当のソネットの一節がそのまま印刷されているという凝りようです。
ジャンルとしては「スコットランドヤードを1人でやる」ゲームです。見えない相手がロンドンの11の場所を移動し続け、あなたはその足取りを読んで捕まえに行きます。
相手を動かすのはステルスデッキという仕掛けです。裏向きのカードの山が彼女の移動経路そのもので、山の一番上のカードが常に現在地。裏面にうっすら見えるランドマークのアイコンだけが手がかりです。並び順はセットアップで決めるので、彼女は必ず地図の道沿いに1歩ずつ動き、ワープはしません。
そして探索の判定が、このゲーム最大の発明です。彼女がいると思う場所で、ステルスカードを鍵穴の開いた場所キーカードに重ねて裏返す。鍵穴に黒いシルエットが浮かべば「いた!」、何も見えなければ空振り。判定装置がカードの物理的な重なりだけで出来ていて、コンピュータなしで完全な情報隠蔽が成立します。
探索に成功するたびに手がかりカードを1枚得ます。手がかりを組み合わせてダークレディの3つの特徴(既婚か、音楽の才があるか、宮廷とつながりがあるか…など)を論理的に絞り込み、最後にもう一度彼女を見つけて対決し、推理をぴたりと当てれば勝利です。
毎ラウンド、レディ→自分の順で手番が進みます。
面白いのは、探索するほど自分の首が絞まる構造になっていることです。まず、探索で使う霧カードは10枚しかなく、使い切ったら敗北。さらに探索後は、持っている手がかりの数だけレディが余分に逃げます。情報を持てば持つほど彼女の逃げ足が速くなり、追跡が難しくなる。この加速するジレンマが30分にきれいな緊張の山を作ります。
手がかりカードの読み方もパズルです。カードには「この女性は文才あり・子持ち・既婚」のように3特徴が描かれ、「このうちダークレディに当てはまるのは、彼女のスートがバラ系なら1つ、ブルーベルなら2つ、オークかドングリなら0個か2個」という条件が付きます。つまり1枚では確定せず、複数枚を突き合わせて初めて絞り込める。消去法パズルが好きな人にはたまらない部分です。
勝利は1通り、対決の成功のみ。3つの特徴を全部特定した状態で彼女を見つけ、推理が完全一致すれば勝ちです。
負け方は4通りあります。(1)ステルスデッキを3周してカウントダウンカードが0で公開される(時間切れ)、(2)霧カードを使い切る、(3)対決したが推理が外れていた、(4)霧カードの特殊アクションを実行できない。30分ゲームらしく、常にどれかの締め切りに追われる作りです。
隠密移動ゲームは普通、鬼役の人間が必要です。それをカードの並び順と鍵穴という物理ギミックだけで置き換えたのが本作の核で、BGGで「ソロの発明品」と呼ばれる理由です。デッキをカットしてもレディの経路は壊れない、探索で抜いたカードは霧カードで補充されて経路が途切れない、と仕掛けの設計が実に丁寧です。
前半は地図上の追跡(どのランドマークからどっちへ動いたか)、後半は手がかりの論理パズル(3特徴の絞り込み)と、質の違う頭の使い方が連続します。どちらも軽いのに、合わさると濃い。
練習・イージー・ノーマル・上級・エキスパートの5モードに加え、ステルスデッキの並び(シーケンス)も超イージーからハードまで4段階。さらに「毎ターン必ず動く並び」と「たまに動かない並び」があり、後者は格段に読みにくくなります。慣れてからも長く遊べます。
公式がPnPファイルを無料公開しており、印刷と工作(鍵穴のパンチ穴あけが少し手間)で製品版と同じ体験ができます。まず紙で試して、気に入ったら製品版、という入り方ができるのは良心的です。
逆に、対人の駆け引きがないと燃えない人、シルエット判定のような地味な作業が退屈な人、運の絡む探索(読みが当たっても空振りはあります)が苦手な人には向きません。
BGGのユーザーコメント(全1,166件のうち最新150件)を読んで、傾向をまとめました。評価分布は8点(約1,400人)と7点(約1,100人)が中心の、手堅い高評価型です。
まとめると、「システムの独創性はほぼ満場一致で称賛、減点はルールブックと反復性」という構図です。Pamperoのときと同じく、ルールの分かりにくさが障壁になっているゲームこそ、和訳ルールの出番だと感じます。

上はTTS Modでセットアップした全景です。中央にロンドンの地図、左に手がかりデッキ、右にステルスデッキと霧デッキ、左下に推理トークン、下段に手がかり・訪問済み/未訪問の場所という配置で、プレイ中の眺めがよく分かります。
デジタル環境はほぼ無し、というゲームです。ただ本作は鍵穴を透かして見る物理ギミックが命なので、そもそもデジタル向きではありません。公式の無料PnPが実質のお試し版と言えます。

ボードは1600年頃のロンドンの古地図(Agas地図)そのもので、Clerkenwell、St Paul's、London Bridge、グローブ座のあるLiberty of The Clinkなど、11の場所が道でつながっています。各場所には教会・商業地・芝居小屋・川辺・田園・シェイクスピアの住居・居酒屋といったランドマークのアイコンが振られていて、これがステルスカードの裏面にうっすら見えるアイコンと対応します。「劇場と川辺のある場所…グローブ座か、それともBlackfriarsか?」と地図を睨むのがこのゲームの前半戦です。
左下の?マーク3つは推理スペースで、確信した特徴のトークンをここに置いてから対決に挑みます。

個人ボードの類はなく、代わりにこのゲーム独自の装置がこの場所キーカードです。写真左が表面で、ソネットの一節と黒い鍵穴(ここに実際に穴を開けます)、写真右が裏面で11の場所とランドマークアイコン。探索時はこの上にステルスカードを重ねて裏返し、穴からシルエットが見えるかどうかで「いた/いない」が判定されます。仕組みを知ってなお、めくる瞬間はちゃんとドキドキします。

写真左が表面です。実在の肖像画の左に3つの特徴アイコン、右に「ダークレディのスートごとに、何個当てはまるか」の対応表。裏面(写真右)はシェイクスピアの肖像と6種のスート(バラ・ドングリ・オーク・アザミ・ブルーベル・セージ)です。ゲーム開始時に1枚を伏せたままボード下に差し込み、それがその回のダークレディになります。名前を覚えても意味がなく、当てるのはあくまで3特徴、という作りが再プレイ性を支えています。
ステルスカードは彼女の足取りそのもの。表は場所、裏はランドマークのアイコンだけ。どの並び順で組むかはカード表面に印字されたシーケンス文字で決めるので、シャッフルは一切しないのに毎回違う経路になります。霧カードは探索の対価として経路に混ざっていく「行き止まり」で、山札の残り枚数がそのまま残り探索回数です。
Black Sonataは、隠密移動という多人数ジャンルをカードの物理ギミックだけでソロに移植した、発明品のようなゲームです。追跡と論理パズルの二段構え、探索するほど逃げ足が速くなるジレンマ、30分で終わる潔さ。地味な見た目に反して、ソロゲームの名作と呼ばれるだけの中身がありました。何より、公式PnPで気軽に試せるのがいい。私もまずは印刷して、ダークレディを追いかけてみるつもりです。
ルールの詳細が気になった方は、BGGのBlack Sonataページ [BGG]もあわせてどうぞ。